日本では緊急事態宣言も伸びちゃって、ベトナムも厳し目に制限がかかってきて、ステイホームする時間がまだ長くなってきました。もともとこの記事は「愛の不時着」で久々に韓国熱がついて書き始めていたのですが、長くなりすぎて放置してました。韓国とか北朝鮮とか、歴史に興味出てきたけどなんかおすすめ映画ないかな、と思っている人向けの記事です。
私は元々韓国でセウォル号事件が起こった頃、2014年ごろに韓国に留学していて、卒論も、1950年6月25日(この日は韓国で「ユギオ」と呼ばれる)に勃発した朝鮮戦争について、特に現代における韓国内の朝鮮戦争の記憶・アメリカと北朝鮮へのイメージ、というテーマで書いていたので、卒論書いた時点のものなので、2016年以降はあんまり追えてないのですが、とりあえずこれ観とけ集です。
とりあえず概観を掴むなら『国際市場で逢いましょう』
朝鮮戦争にまつわる映画を観るときに欠かせない要素となるのが「家族」。大国に翻弄されて分断された「離散家族」が生まれた朝鮮戦争を扱う映画となると、やはり家族にまつわるお話が多くなります。
そもそも韓国の近代史もよくわからんしな、という人は『国際市場で逢いましょう』から入るのがわかりやすいと思います。
ユンジェギュン(윤제균)監督による 2015 年『国際市場で逢いましょう』である。観客動員数 1400 万人を動員し、韓国映画歴代 2 位の観客動員数となっています。朝鮮戦争で父と妹と生き別れた主人公ドクスの一生を描くもので、歴史を作ってきた実際のエピソードをふんだんに盛り込みながら、朝鮮戦争〜現代までを描きます。
主人公ドクスを演じるのはファン・ジョンミン。ドクスはとにかく家族のために出稼ぎでドイツに行ったり、ベトナム戦争へ行ったりとするのですが、最後の方ではかなり切ない感じに。。
東方神起のユンホも出演。彼はドクスがベトナムで出会うナム・ジンという歌手の役なのですが、ナム・ジンは実在の人物です。彼の歌はこの映画のみならず他の映画でも離れた家族を思う歌として登場するので、聴いておくとより楽しめます。
ナム・ジン「あなたと一緒に」
日本語ついた動画がなかったのですが歌詞はこんな感じです↓
あの緑の草原に 絵のような家を建てて
愛するあなたと 100 年暮らしたい
春には種をまき 夏には花が咲くね
秋には豊作になって 冬には幸せだね
かっこいい高いビルがたくさん建っているけど
流行りの生活をするのもいいかもしれないけど
蛍舞う茅葺屋根の家だって
愛するあなたとなら 私は幸せだ
敵国スパイとの恋を描いた『シュリ』
韓国では1980年代まで政府による映画の検閲がありましたが、1995年に検閲委員会が撤廃されたあと「韓国映画ルネサンス」と呼ばれるほど新しい風が吹きました。それまでの映画は反共的な映画が多かったのですが、1999年に公開されて大きな話題を呼んだのがカンジェギュ(강제규)監督の『シュリ』です。
『シュリ』は秘密情報機関 OP の特殊要員ユ・ジュンウォンが、北朝鮮の特殊 8 軍団所属の狙撃手イ・バンヒを追うという、ジャンルで言えば戦争サスペンス・スリラーになる映画です。
この作品はソウル市民になりすました北朝鮮の女スパイと韓国の情報機関の特殊要員の悲劇的な恋を描いたものですが、この映画について、朝日新聞のインタビューに対してカンジェギュ監督自身も「かつての反共という固定観念から脱した作品を作りたかった」と答えているように、公開された当時、現代を舞台にしてここまで密な北朝鮮と韓国の人の交流を描いた作品はなく、反共イデオロギーを完全に脱した作品だったことから、韓国と北朝鮮の関係を描く映画のブロックバスター的存在となりました。
迫力あるアクションシーンと、切ないストーリーで手に汗握り涙で前が見えなくなります。バスタオルを準備してください。ヒロインのキム・ユンジンが美しすぎる。
この映画、アクションや戦闘シーンに相当気合が入っていて、銃撃戦をガチに撮影しすぎて市民から通報されているほどです。
国境線での南北兵士の交流を描く『JSA』
『シュリ』に続き2000年に公開されたのが、朝鮮戦争後、板門店の共同警備区域である国境線を守る北朝鮮と韓国の兵士の交流を描いたパクチャヌク(박찬욱)監督による『JSA』。
観客動員数 583 万人を記録し、『シュリ』に並ぶヒットとなりました。
映画は、DMZで起こった朝鮮人民軍の将校と兵士が、韓国軍兵士によって射殺されるという事件から始まります。スイス軍少佐ソフィーが、いったい何が起こったのかを解き明かしていくというストーリーで、そこには悲しくも心温まる南北の兵士の交流が浮かび上がります。
今までの映画では、北の兵士は残虐で人らしく描かれていなかったのですが、ここに出てくる北朝鮮兵士は、ただ38度線で分かたれた国の向こう側にいる同じ人間として、韓国兵となんら変わりの無い人間として描かれています。これも当時としてはかなり衝撃、批判も多くありました(そもそも交流が生まれることはありえない、と多くの批判が起こったようです)(『愛の不時着』でも同じような批判出てましたね)
朝鮮人の父を持つスイス軍少佐ソフィーは、イ・ヨンエが演じています。彼女が美しすぎてですね…もうどこを切り取っても美しくて圧倒されます。考えると、少佐に女性を起用するなんてかなり先進的な設定なのですが、「女性だから」と周りに舐められて接される彼女の姿も描かれており、監督は「女性だという理由だけで相手を見下し、軽んじる軍隊社会の排他的性格も描きたかった」と述べています。
最近の韓ドラでも、女性が高い地位についていることが描かれていて先進的だ!となっていましたが、JSAの時点ですでにこの問題意識が描かれているのはさすがですね。
3作品紹介したところで息切れしてきました。これから紹介する作品たちも素晴らしいのですがボリューム抑えめで紹介させてください。
『ブラザーフッド』
言わずもがな名作です。監督はシュリと同じカンジェギュ(강제규)監督。
映画は古びた万年筆を発掘するシーンから始まり、国によって引き裂かれた兄弟を描いていきます。兄ジンテも弟ジンソクも家族のことを考え、生き抜くために必死に闘うのですが、すれ違っていくのが非常に切なく、目を覆いたくなるような残虐なシーンも多いのですが、戦時中にこれが行われていたと考えると本当に辛くなる映画です。
KBS(韓国放送公社)が実施した離散家族分布現況によれば、さまざまな理由で生き別れになっている家族のうち朝鮮戦争によって別れたものが66.7%と 3 分の2以上を占め、このうち兄弟を探しているものが 50.1%と最も多く、次に両親を探しているものが19.4%であるという結果になっていて、公開された当時はその離散家族の状況もあって多くの人の心に刺さったのでしょう。
『トンマッコルへようこそ』
2005年、韓国で最もヒットした映画です。音楽は久石譲。
映画の中に登場する架空の村である「トンマッコル」と呼ばれる村は、朝鮮戦争真っ
ただ中の朝鮮半島にあるというのに村人たちは戦争が起こっていることも知らず平和
に暮らしていた。そんな平和な村に迷い込んだ韓国兵ピョ少尉、サンサン衛生兵が見た
のは、墜落した飛行機から救助され村で手当てを受けるアメリカ兵スミス大尉。そんな
ところへまた、北朝鮮兵リ将校、ヨンヒ、テッキが迷い込んでくる。
突然の敵の登場に双方驚き銃を突きつけ合うが、何が起こっているかわからない村人と兵士の対比が笑いを誘う。同じ村にいながらも小競り合いを繰り返していたが、イノシシ退治を通じて和解し、南北兵士は仲良く平和に暮らし始めるーーというのがストーリー。
監督は民主化運動・反米感情が高まっていた時期に生まれ育った386世代。この作品にははっきりとアメリカへの政治的批判が現れていて、当時はその描写が議論を呼んだそう。
長くなり過ぎそうです。後半はまた体力があるときに書きます…。
予告:
『トンソルリへようこそ』
『戦火の中へ』
『小さな池 1950 年・ノグンリ虐殺事件』
『シルミド』
『高地戦』
『兄思い』